一方的な批判・非難ばかりのSNS、いじめについて考える読書ブログ

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奪われた自分を取り戻す、必読の一冊【障害者差別を問いなおす】

0.はじめに

一言で、障害者差別といっても、

その内容は、とても広く、多岐に渡ります。

思い浮かびやすいのは、社会参加、就業面の問題、

都市インフラのバリアフリー化などで、もちろんこれらの改善も大事ですが、

そこに根差す、差別されたと感じる人の心の面に

フォーカスを当てて、知ることは、とても重要です。

差別は、差別をされたと感じる人がいなくならなければ、

なくならない現実があるからです。

 

今回紹介させていただくのは、

障害者差別を考える書籍なのですが、その視点の取り方が、

とても優れていると感じられます。是非読んでいただきたい一冊です。

 

今回の目次です。

 

1.紹介する本

「障害者差別を問いなおす」(ちくま新書

著者:荒井 裕樹さん

著者の荒井さんは、障害者文化論を専門とされる方と著書内で紹介されています。

障害者の活動についての書籍、障害者の視点を論じる書籍の出版が見られます。

 

2.内容まとめ

国内の障害者が差別を乗り越える為に起こした、

過去の抗議運動を振り返りながら、

どのような行為や価値観に対して差別だと認識し、

批判をされてきたのかを考え、

もう一度、「障害者差別とは何か」を考えることを目的にしています。

 

序盤には、「青い芝の会(日本脳性マヒ者協会)」の

沿革と活動の歴史を振り返りながら、

差別への抗議行動を行い始めた、障害者の主張に迫ります。

続いて、「合理的配慮」に見られる、障害者の主体性に対する

障害者の主張と心情に踏み込んでいます。

「感動ポルノ」が話題となった件、自身の脳性マヒの子どもを

殺してしまった母親に対する社会の反応、

障害者の抗議に対するSNSでのバッシングなど、

差別をされる側の心情と、社会の反応の違いを解説しています。

 

後半から終盤は、優生思想、相模原事件など、

障害者の命とは何なのか、という価値を問い直す問題に

せまります。

 

3.感想とまとめ

障害者差別の問題だけではなく、ジェンダーの問題においても、

多様性の問題においても、差別を考える上で、必読の一冊だと思います。

ここに出てくる障害者も、それを遮る側も、同じ人間で、

自分なのだと痛感させられます。

 

差別は、差別された側がどう感じたか、という視点は非常に重要です。

いじめも、様々なハラスメントも、された側の心情の理解に、

解決の糸口があるからです。

また、巻初で、

皮肉なことに、「差別」は「悪いことだ」という総論で同意しやすいからこそ、

逆に各論で同意が得にくくなるのかもしれません。

各論で議論するとは「あなた(わたし)、その言動は差別に該当するか否か」

について考えることにつながるからです。

とありますが、他の図書でもあるように、

「自分は悪いことはやっていない」

「発言しなければ、他人への違和感を感じるのは内心の自由だろう」

など、差別を生み出す価値観は、「差別は悪いこと」を前提に

形成されているところに、問題の深さがあります。

その中で、差別をされている人の、どこに差別を感じたのか、

というポイントをはっきりさせることは、

差別をしている側に、自身が悪いことをしている、と突きつける行為に

なるので、受け入れがたく、正当化やなすりつけの中で、

差別をされている側に原因を求めてしまうのが、SNSで見られる

バッシングなどに表れているのだと考えられます。

 

中盤で、豪州の障害者のジャーナリストの故ステラ・ヤングさんの

スピーチを著書内でも引用されていますが、とても印象的です。

「障害者が乗り越えなくてはならないのは、自分たちの体や病気

ではなく、障害者を特別視し、モノとして扱う社会だ」

 

また、後半の優生思想について考える部分では、

ナチスの例なども取り上げられ、興味深い部分です。

以前に別記事で紹介させていただいた、ポピュリズムを懸念する書籍でも、

優生思想に基づくナショナリズムや、それに似た考えが、

ポピュリズムのもたらす害として、解説されていましたが、

障害者差別の問題は、個人の価値観ももちろんなのですが、

社会が生みだしていく怖さは痛感します。

その社会の雰囲気・扇動に対して、どれだけ人間本位の価値観を持てるか、

いつまでも考え続ける必要があるのだと思います。

 

巻末で、相模原事件がもたらした問題として、

「障害者も同じ人間」という言葉の危うさに警鐘を発しています。

ただ生きてるから殺してはいけない、ということに落とし込まれてしまう

もどかしさに対して、

今まで、障害者の方が声を上げ続けてきた、人間とは何か、

という意味をこれからも積み上げていく重要性を訴えています。

 

とてもいい内容で、繰り返しになりますが、

障害者差別に関わらない、あらゆる差別に対して、

有効なアプローチが示されている書籍だと感じます。

 

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