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人文科学の力を感じる一冊【マイノリティ問題から考える社会学・入門】

0.はじめに

主に高校から、文系、理系の専攻は始まって、

文系は人文科学、理系は自然科学と分類されていますが、

どうしても、日本国内では理系重視の傾向で、

人文科学の研究は注目されにくいと感じるのは私だけでしょうか。

 

今回は、様々なマイノリティ問題を考える書籍を紹介させていただきます。

分かりやすく、多面的に考察を重ねていて、

現在の人文科学の力を感じさせてもらえる一冊です。

どうしても未来はテクノロジーの進化が切り拓いていくと思いがちですが、

人文科学の力も人類の問題を解決してくれる大事な力になります。

きっとそんな力を実感される書籍です。

 

今回の目次です。

 

1.紹介する本

「マイノリティ問題から考える社会学・入門-差別をこえるために」(有斐閣

著者:西原和久+杉本学 編

12人の社会学者の方による、

現代のマイノリティ問題に対する紹介、問題提起を

2人の編者がまとめた構成になっています。

 

2.内容まとめ

序章で、著書内の「差別」を次のようにしています。

差別とは「区別と蔑視と排除」の3つが合わさるときに

明確に成立するといえます。

区別は無条件な差別にはつながりませんが、

一面的な捉え方や偏見に基づく見下し=蔑視がなされて、

さらに実際に排斥・除去という排除の行為がなされる場合には、

差別だということができます。

また、同時にマイノリティを

個人の生活の機会や権利が、力ある他者によって奪われて、

劣位に置かれている状況にある人

と定義し、現代における国内のマイノリティと差別の問題を掘り下げていきます。

 

取り上げている内容は

・社会的なマイノリティの女性、障害者、外国籍の子ども

・国際化の中でのマイノリティ問題

・マイノリティ問題への新たな動き

・脱差別の理論と実践

と解説が進んでいきます。

終盤は、海外の事例、差別を超えるための運動などが紹介され、

解決の方法を論じる終章につながっていきます。

 

各章とも、わかりやすく、多様なマイノリティ問題について、

解説されていて、一冊を通して、国内のマイノリティの差別に

対しての理解が進む構成となっています。

歴史的な問題の流れ、海外との比較、時に数字・グラフなども

組み合わせて、有機的な解説が展開されます。

最後に、「競争・対立から協力・共生へ」

の価値転換が未来を切り拓くことを述べています。

 

各章ごとに、章末で詳しいキーワード解説がされていて、

読みやすい工夫がされています。

 

3.感想とまとめ

専門書籍に見えますが、読みやすい構成で、

複雑なマイノリティ問題に対しての理解につながる

社会学専門の方以外にも、非常に価値のある一冊だと思います。

 

様々なマイノリティ差別についての紹介と問題提起は、

終章の問題解決への方法の論述につながっていきますが、

そこでは、重要なこととして、近代的価値観からの脱却が論じられます。

 

脱却すべき価値観の具体例として、

経済的に生産性がある人間「ホモエコノミクス(経済人)」

を有用とする人間観で、生産性の低い人間は社会の周辺に置かれ、

生産に寄与できない人間は、排除されてしまう価値観が挙げられて、

これらを、新しい理論を用いての価値転換を促すことが説かれています。

 

現代の日本では、ある政治家の発言で、

LGBTが生産性のない人間だと論じられたこと、

障害者施設に入る方々が「無価値」であると決めつけて、

次々と殺傷していった大きな事件としてしまったことなど、

実際にこの近代的な価値観を具現化してしまった事件が見られて、

著書内で述べられる、価値転換が求められる局面に迫った状態で

あることを強く感じます。

 

最終章は、短いですが、興味深い内容に富んでいて、

序章-最終章-1章から順に、と読まれると、

ちょっと読みごたえのある、この本がより読み進めやすくなったり、

理解がより深まるのではないかな、と個人的には思いました。

 

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