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ヤングケアラーと貧困、孤独【子ども介護者】

0.はじめに

「ヤングケアラー」ということば、聞いたことがありますか?

近年明らかになってきた、子どもが親、祖父母の介護の為に、

進学や就職などに大きな制限を受けるケースです。

家庭環境上、手伝いの範疇を超えてしまい、

場合によっては、通学すらもできなくなり、

将来についての希望を失い、悲観してしまうこともあり、非常に深刻です。

経済上の格差、孤独などももちろん大きく関連してきます。

 

今回紹介させていただくのは、ヤングケアラーの実態を解説し、

考察を重ねている数少ない書籍になります。

その実態は、かなり厳しく、また珍しいケースでもないことが

明らかになります。

 

今回の目次です。

 

1.紹介する本

「子ども介護者 ヤングケアラーの現実と社会の壁」(角川新書)

著者:濱島 淑惠さん

著者の濱島さんは、介護、家族、ワークライフバランス

このヤングケラーの問題の専門研究をされている方で、

問題解決への有志団体も立上げられています。

 

2.内容まとめ

日本では、まだ公的なヤングケアラーの定義はなく、

ヤングケアラーの支援が進む海外の定義から

①無報酬のケアを提供していること

②ケアの相手は家族に限らず友人も含まれること

③ケアを提供している理由として、ケアの相手が疾患、障がい、

 依存症などを有していること

を挙げ、また、国内の支援団体では、

家族にケアを要している人がいる場合に、

大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、

感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子ども

と紹介しています。

ポイントは、「大人が担うようなケア責任」と程度も定めています。

 

まだ、国内では実態調査が始まったばかりの状況を解説され、

周辺調査からの読み取りを中心にその存在が明らかになりながら、

やっと本人への聞き取り調査が始まったばかりの実情が示されます。

 

その中で、著者が先行して行うことができた、

大阪の府立高校生への調査から、ヤングケアラーの実態を解説していきます。

 

生徒の中でのヤングケアラーの割合、

家族の誰のケアを、一日の中でどれくらい時間行っているのか、

また、学校生活の満足度、自身の健康観などへの影響、経済的な余裕度の感覚、

ヤングケアラーの状態をどれくらいの割合で、誰に相談できたのかの調査統計、

また、ヤングケアラーの高校生と、学校教員との意識の差、

など、限定的な範囲の調査ながら、かなり詳細な調査内容が示されています。

 

中盤では、その中で著者が、より深く知ることができた、

ヤングケアラーの個人的な生活、心情の実態を詳しく解説しています。

・祖父母のケアを行うケース

精神疾患の母親のケアを行うケース

・きょうだいのケアを行うケース

のヤングケアラーの詳しい実態が紹介されます。

いずれも、具体的なケア内容と共に、学校生活への影響、

生活のサイクル、将来への希望、周囲とのかかわり方など、

ヒアリングから得られたヤングケアラーの心理的な状態

も伝えられています。

 

終盤にかけては、問題点とその社会的な背景の分析が行われ、

支援に向けての提案、現在行われている活動の紹介がされています。

一冊を通して、国内のヤングケアラーとそれを取り巻く状況が、

よく理解できる書籍だと思います。

 

心情的なドキュメントに終始することなく、

統計、海外の事例、社会背景なども客観的に分析も行われ、

また、著者がその実態把握に奔走されてきた際の話も加わって、

社会問題としての危機感の理解も深まります。

 

3.感想とまとめ

ヤングケアラーの深刻な状況に危機感を感じることはもちろんなのですが、

その背景には、いじめや差別などに共通する原因も同時に感じます。

格差や孤独との連動性が大きく、また周囲の認知や理解が足りない点です。

 

まだ国内での実態調査がなく、著者が実態調査を学校に依頼に行った際に、

ある学校では、理解が薄く、

「そんな子どもたちがいるはずないだろう」

「そんな調査をしても意味がない」

お叱りを受け、しょんぼりしながら帰ったことが何度もある。

そんな中で、理解のある校長先生に出会い、

教員も本当に何とかしてあげたいと思っている、と他の学校にも

声をかけてくれて、前例のなかったヤングケアラーの詳細な調査を

行うことができた、と述べられています。

 

また、ヤングケアラーである実態を他人に相談できたのは、

全体の45%、その中で介護・福祉の専門の人に相談した割合は4%に

過ぎず、学校の先生に相談できた割合も10%台半ばでした。

 

本当の実態がわからず、

当事者が周囲に話せず、専門的な解決手段をできず、

学校などに理解や認知がなく、となっている問題点は、

学校の中でのいじめ、社会の中での様々ないじめ・差別問題と

似ている点があると感じられます。

 

終章では、具体的な支援が挙げられ、また元ヤングケアラーも声を上げはじめ、

その存在が知られることで、問題解決への歩みが感じられますが、

社会の壁は彼らの存在を隠してしまうが、

ヤングケアラーたちはいつもそばにいる。

まずは壁を無力化する。

それが全ての基礎になるであろう。

との結びのことばが、共通する問題解決の大きな力になること、

まずは思い込みを外し、知ることから始まる重要さも同時に感じます。

 

まだ、国内では知られ始めたばかりの問題の中で、

具体的な調査結果なども記されている、貴重な一冊だと思います。

 

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